第32期新人公演
速すぎて見えない
直前インタビュー
八月某日、早稲田大学学生会館。
三か月間の新人訓練も佳境を迎え、稽古にもますます熱が入ります。
そんな稽古の合間を縫って、今年の新人担当である内田倭史、小坂井阿門がインタビューに答えてくれました。
新人たちや公演に対する熱い想いをたっぷり語ってもらいました。
(聞き手:高木陽介 記録:中島梓織)
――ずばり今年の新人はどんな新人ですか?
小:毎年こういう質問に対して「今年の新人はバカです」とか言うじゃない。でも、バカではないかなって。
内:真面目だよね。
小:かしこいよね、よくも悪くも。俺らもさ、よくも悪くも「バカ」って言葉は使ってないよね。
内:たしかに。「お前らバカか!」とか言わない。
小:いい意味でも悪い意味でも。
内:そんなバカではないからね。
小:内田のほうがバカ(笑)
内:それはある(笑)
――それはちゃんと考えてるってことですか?
内:考えてることはあるんだけど、それができない。
小:でも試行錯誤はするじゃん。ただ、俺らがいろんなこと言って、それを全部やろうとするから、それはよくないのかなって。
――新人訓練を通して変わったことはありますか?
内:今まで反骨精神とか一切なかったやん。肉体訓練とか、台本稽古のしょっぱなとか。最近になってそれがあるのかなって。最初は全くなかったのよ。こういうもんですよね、ってやってた。そこに対しては何か考えを持ったのかなって。
小:そうなんだ。俺は思わなかった。
内:まだない?
小:うん。いや、わかるよふつうに。最初は全くゼロだった人たちが、今はやってるっていうのはあると思うけど……
(しばらく沈黙)
小:じゃあある。
皆:(笑)
内:でもなんかさ、こういうのおもしろそうじゃない?っていうのは増えたでしょ。稽古終わった後とか見ててもさ。
小:俺は、最初からあったけど、見てなかっただけなのかなとか。こういう風に作ってるんだとか、ここは実はこうなんだみたいな。そういうのって、最初からあったけど俺らが気づかなかっただけのかなって。……まあ、だから、反骨精神あるんじゃない?
皆:(笑)
――これからも変化するでしょうしね。
内:変化してもらわないとね。今は猫パンチをずっと打ってるような感じじゃん。ない?そういう感じ。
小:あるある。
内:その先の会心の一撃みたいなのを期待してる。
――猫パンチね。
内:別に猫パンチはそんなに重要じゃないよ(笑)
――いい言葉だなと思って。
内:いい言葉?(笑)
小:俺もなんかそれだーって思ったよ。猫パンチかーって。俺が言葉にできなかったことって猫パンチなんだーって。
内:じゃあいいよもう猫パンチで(笑)
――阿門さんはどうですか?
小:俺は、普段からやってることなんだけど、役者と会話して稽古して、また会話して稽古して、っていう繰り返しじゃない。最初はそれがなかった。一方的に俺らの言葉を受け取るだけの新人だったのよ。最近は向こうが思ってることを話してくれるから、要はそれは普段やってることに近いわけで、そういう意味で「役者」に近づいてるのかなと思う。やっぱり考えるって義務じゃん。俺たちが言ってることを受け取るだけじゃただそれを課題にしてるだけで、考えてるわけじゃないから。それが変わったと思う。
――新人担当としての方針などはありましたか?
内:丁寧にやろうとしてたよね。どういう理由があってこれやるんですよっていうのを丁寧にやろうとしてた。
小:俺らのとき(自分たちが新人のとき)は、こういうのはあれだけど、粗暴だなって感じてた。「演劇ってこういうもんだ!」「これが正解だ!」って、それってどうなのかなって思う部分もありつつも、新人担当が言うから何かあるんだろうなっていうのもあって、両方あってやってたから、
内:結局俺らが消化できなかったんだよね。
小:「それはちげえよ!」って言えるわけでもないし、
内:妄信できるわけでもない。
小:その半分半分でやってたから、それははっきりさせたほうがいいのかなって思った。だから俺らはちゃんと筋の通ったことを言おうって。最初はね。
内:直接言ったりすることもあったし、自分たちで考えてって言うこともあった。
小:ただそれをやるとやっぱり全部やろうとするから。結局そんなのできないじゃない。入ってきたばっかの人たちに。
内:たかが三か月でね。
小:そうじゃなくて、一個言うだけでも変わることってあるじゃん。もっと、それこそ雑なことでもさ、一個言うだけで変わったりするっていうことがあるっていうのが俺は大事だなって思ったから、最近はいい意味で雑にやろうかなって。
内:台本稽古の中盤くらいからそうだよね。いろいろロジックで考えるより、やっぱり体でつかまないとわからないことはできないから。
――新人たちの課題は何ですか?
内:やっぱ女の子四人だと、どうしても身近な同期に男がいないっていうのは、そこから影響ってのがないから、どういうことが体を使うってことなのか、動けるようになるってどういうことなのかって言われても、まだつかめてはないのかなって。逆に言えば、そういうハード面がうまくいけば、シーンひとつやるにしても、今のままやるのと、発声がちゃんとできた状態でやるのとでは、面白さが段違いだと思うのよ。
小:たしかにそれはある。
内:シーン作るにも意外と練ってくるやん。練ってるんだったら、それをやる力がないと。
小:新人らしさだよね、要は。俺らは、技術とかあんまりなかったけど、パワーでカバーしてるみたいな感じだったから、対称的なのかなって。それこそ粗暴だった。
内:どうこれおもしろいでしょ!?みたいなね(笑)
小:そういうのはあんまりないよね。
内:ただそれを、やみくもに「やれ!」って言うのも、
小:よさがなくなっちゃうのもやだからね。難しい。
内:あるからね、ひとつよさが。
小:ただ、どっちかっていうと俺は本当はそういうものを最初に身につけてほしかったと思う。あとでいくらでも作るとか練るとかそんなことはできるんだから。だから俺はそれが課題。
――では、新人たちのいいところは?
内:おもしろいなって思えるところがあるところだと思うよ。ちょっとずつ自分のどういうところがおもしろいのかっていうのがわかってきて、わたしのここがおもしろいから、ここをやろう、って。まだ猫パンチだけど、バコーンっていければ、おもしろくなるんじゃないかなって思う。
小:見た目とかじゃない?
内:臭くないところとか?
小:変な話だけど、スポーツ選手みたいな。スポーツ選手っていい顔してるじゃん。そういう顔が時々見える。だからただ汗まみれになってるんじゃなくて、なんなら普段よりも動いてるときのほうがきれい。
内:いい顔はしだした。
――今回の新人公演はどんな公演ですか?
小:血で血を洗う……
内:かわいい女の子四人が殺し合いを……するかどうかはわかんないですけどね。でも背景世界は、血がブッシューッ!
小:殺されないように、とか言うといいのかな(笑)
内:もちろん三か月やってきた集大成として、新人たちが己の体だけを武器にやるっていう側面も見てほしいし、純粋に彼女たちが考えたコメディ作品という目でも見てほしい。どっちか欠けるとね。
小:四人を知らないとか、エンクラを知らないっていう人が見ても、おもしろいなって絶対思う。たまたまふらっと通りかかった人が見ても。タダだし。
内:しかもどらま館っていう「劇場」を使うわけだからね。そういう意味でも俺たちはどらま館でやりたかった。
小:要は、演劇だよ。
内:(笑)
小:ちゃんと演劇をやってるよって。ちゃんとお客さんに向けてやりたいって思ってる。
――最後に意気込みをお願いします!
内:最後の二行使うやつね。
小:内田から言って。
内:え?
小:俺二行目がいいから。
内:新人はおそらく速すぎて見えないので、覚悟して来てください!
小:……
内:はい。
小:みんながんばってるので、
皆:(笑)
小:見に来てください。おもしろいので。
内:急にテンプレだな(笑)
終始笑顔で、ときに真剣な表情も見せながら語る二人の姿は、新人に対する愛情に溢れていました。
新人と新人担当が一夏をかけて作り上げた、
第32期新人公演『速すぎて見えない』
ご期待ください!
【第32期 新人担当】
内田倭史(左)
演劇倶楽部30期。劇団スポーツ主宰。
小坂井阿門(右)
演劇倶楽部30期。犬大丈夫主宰。